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Action Design Research Projectでは今年度、COVID-19の感染拡大の影響を受け、協働的なデザインプロセスの構築について一部変更を余儀なくされました。一方で、設計者?制作者?使用者の立場から、従来の産業技術とデジタルファブリケーションの併用可能性についての考察や試作を続けています。この連載では3回に分けて、技術支援専門職としてIAMASのイノベーション工房に勤務し、本プロジェクトに携わる伊澤宥依が、制作者の視点からデジタルファブリケーションの活用について考察します。
第1回:インストラクションの違いから考える、デジタルファブリケーションの集合知
昨年度、Action Design Research Projectでは、藤工芸株式会社とIAMASの双方で、opendeskが公開しているデータを元に木工家具を制作するワークショップを行いました。木工製作所とファブ施設という制作環境の違いに加え、バックグラウンドの異なる制作者が、デジタルファブリケーションという共通の製造方法を通してデジタルファブリケーションとオープンソースの可能性を探ることを目的としています。今回は、このワークショップを通して得られた知見とそれをもとに作成したインストラクションの意図を振り返ります。
今回のワークショップではLeanDeskという家具を選びました。LeanDeskは、組み立てだけでなく、CNC切削機による切削部分からユーザー?制作者にアウトソースされています。opendeskから公開されているのはカットデータと一枚のインストラクションのみで、制作時に必要な情報が不足していました。私はまず、カットデータとレイヤーごとに設定されている切削指示から3D CAD上でカットパーツをモデリングし、インストラクションと比較しました。使用不明なパーツが複数存在しており、CAD上で組み立て、シュミレーションしながらインストラクションに明示されていない要素を読み解きました。一通り組み立ててみると、通常木工製作所が行わない様な加工方法が設定されており、ここからopendeskの設計思想が考察できました。全てのパーツが同じ大きさと板厚の規格材から加工できる、板取を最小に抑えるためにパーツを分割する、CNC切削機を使用することを除いて専門的な技術が不要など、DIYを前提とした設計になっていることがわかります。ワークショップの事前準備として、切削機の精度で影響をうける嵌合部分のデータを修正して加工、藤工芸ではIAMASで制作した実物のLeanDeskを見てもらい、データの修正をしない分板厚を調整することで嵌合部分の整合性を取りながら制作しました。
アプローチ方法は違えど、カットデータから全体像を把握する作業が発生した点、それぞれの制作環境に合わせて変更が必要であった点など、IAMASと藤工芸の双方で乗り越えなければいけない壁がありました。また、IAMASではデータの調整が甘く、組み立て時に追加の加工が必要だったという反省点もあります。これらの問題点を解消する手段として、インストラクションを再制作しました。
LeanDeskの制作、嵌合部分の調整?加工
目的の異なる3つのインストラクション
インストラクションの検討にあたり、ワークショップに参加したそれぞれの立場から3通りのアプローチを想定しました。対象者にとって必要な情報が異なることを把握し、オープンソースデータとインストラクションを通してどのようなコミュニティの形成が可能かを考察するためです。
1) 初心者向け(作成:IAMAS学生、対象:ファブ施設の利用者)
パーツに色付け、使用ツールを写真で掲載することから、文章で加工にかかる時間と人員など丁寧に解説している。
2)上級者向け(作成:伊澤、 対象:ファブ施設の利用者)
上記同様、必要なツールと材料を明示し、組み立て図を詳細に記載している。一方加工時間や細かい文章での説明は省略している。
3) 木工製作所向け(作成:藤工芸株式会社、目的:社内でのコミュニケーション)
A4一枚と数点気になった部分を文章で記載。全体像は写真で共有。
藤工芸のインタビューとワークショップの成果
藤工芸が作成したインストラクションから、木工製作のプロであれば必要な部分は全体像の情報のみで、インストラクションとして再作成するほど制作面の課題がなかったことが窺えます。制作後のヒアリングでは、木目などの仕上がりや強度に関しての懸念事項、製造者視点のデザインフィードバックを得ることができました。また、インタビューでは、量産や型?ジグの出力がメインだったデジタルファブリケーションが、近年ニーズの変化により単品で変形の製作物を出力できる機器へと位置づけが変化していることが分かりました。このニーズの変化による問題点として挙げられたのがデータの扱いです。図面の書き方が多様であることや、グラフィックソフトなど、製造の現場では馴染みのないデータ形式が共有されることにより、データの変換や修正などの工程が発生してしまいました。Lean Deskではカットデータが共有されており、ハード面で調整ができたためデータ修正が不要で、設計者が作成したカットデータをそのまま製造の現場で利用できるという従来の製造とは異なったアプローチの可能性が垣間見えました。一方でカットデータだけでは全体像の把握は難しく、製造以前の構造や作り方を検討する面では自由度が低いという問題点もあります。
単品で変形の製作物の出力(藤工芸株式会社)
インストラクションがもたらすコミュニケーションの可能性
instructables、Fabbleなど、インストラクション機能に特化したツールや、twitter、noteで制作過程を共有している事例が存在しています。内容は、制作メモ程度のラフなものから丁寧に解説しているものなど様々です。2010年代前後から起きたメイカームーブメントの中で、データ?ノウハウ?制作方法などがオープンソースとしてばらまかれた背景には、誰もが初心者であったことがあげられます。従来の製造とは異なり、初心者、アマチュア、プロという区分けは存在せず、どんな人がどの国、地域、制作環境で挑むのかはわかりません。うまく行かない部分を自分で解決することが学びであり、一つのアイディアを各々がローカライズして行くことが面白みでもありました。その中でインストラクションはあくまで指針であり、一種のコミュニケーション手段として機能しています。
改めてopendeskから公開されているインストラクションを振り返ると、制作前の下準備にある程度知識や技術が必要で、このハードルを下げることがインストラクションを再作成する意図でした。しかし、データを公開する側からは制作者を限定し難いオープンデータを、あえて読み解きにくいものにすることで、opendeskはある程度制作者の限定に成功していると言えます。また、読み解き、制作しながら、制作者が設計思想を考察できる仕組みになっているのです。
一般的な製造工程ではデザイナー?設計者側から図面によってコミュニケーションを取っています。デザインと製造という立場が分断されているため、作れる?作るための情報があれば十分です。LeanDeskでは、デザイナーがインストラクションやカットデータを通して製造工程に介入することにより、図面だけでは得られない情報を制作者に伝えています。制作者自身がその情報を読み取り、解決することによって学びを得ることが、制作過程に織り込まれていることがわかります。opendeskのDIYに基づいた設計思想や意図を理解することは今回の制作において重要な経験でした。インストラクションに限らず、作れる?作るための情報とはまた別のベクトルからのコミュニケーションの可能性があると感じました。
伊澤宥依(産業文化研究センター 技術支援専門職)