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2022年 リンツ美術工芸大学交換留学体験記 #1 個人研究と活動

新垣隆海(博士前期課程1年)

はじめに

こんにちは。私は欧洲杯比赛投注_欧洲杯外围app-竞猜|官网 博士前期課程1年に在籍中の新垣です。この留学体験記では、私が2022年9月から12月まで留学したリンツ美術工芸大学(Kunstuniversit?t Linz)での体験、リンツ/ヨーロッパでの滞在生活、個人研究と活動についてを複数回にわたって、欧洲杯比赛投注_欧洲杯外围app-竞猜|官网で伝えます。まず第一回目は留学の動機、渡航準備、そして、コロナ禍におけるヨーロッパでの生活など、留学全体の概要について書きたいと思います。
初めにIAMASでの留学プログラムの概要について説明します。IAMASでは海外の教育機関との学生交流事業として交換留学制度が設けられています。現在提携している教育機関はオーストリア?リンツのリンツ美術工芸大学(Kunstuniversit?t Linz. 以下、リンツ美大と呼ぶ。)です。リンツ美大の学科の一つである「Interface Culture(以下、ICと呼ぶ。)」の学生として3カ月滞在します。留学中は、個人の研究をするのも良し、学生と一緒に授業に出席するのも良し、ヨーロッパを巡るのも良しで、自らが滞在中の計画を立てることができます。このIAMASの交換留学プログラムには、県から留学補助金が助成されます。

 

留学の動機

まず初めに自分の簡単な研究?制作についてと、海外留学の動機について説明します。私の研究は「メタバース/バーチャル?リアリティーと芸術」についてです。現代において、VRやメタバースが一般的な言葉となり、芸術領域においてもVRやメタバースが活用される機会は増えました。VR/メタバースと芸術と言えば、バーチャル展示や、バーチャル空間の作品化などが想像されますが、自分はそのような「道具」としてVRと芸術に関する表現ではなく、VRやメタバースを「概念的に」捉えることによって、なぜ一般社会において、VRやメタバースが「受容され」たり、「想像され」たり、してるのかを表象する研究を行います。私はそれを「メタバースをテクノロジーとして捉えたとき、それを可能にしている社会状況、構造、環境、そして人間とテクノロジーの関係と想像力を表象した表現」と称しています。VRやメタバースを道具として捉えた芸術を「Art “using” VR/Metaverse」と翻訳したとき、私の研究は「Art “thinking” VR/Metaverse」と翻訳しています。

リンツ美大にて行ったプレゼンテーションの一枚

そのような研究テーマの中で、日本では「Art “using” VR/Metaverse」の表現が多いと感じる中、海外ではどのような事例があるのかについてとても興味がありました。交換留学先のリンツでは世界最大のメディアアートの祭典「ARS ELECTRONICA FESTIVAL」が開催される都市でもあり、そのような都市においてメタバースやVRがどのような表現に用いられているのかを調査したいと思い、交換留学制度に応募しました。
結論から述べますと、リンツの美術館で開催されていた「META.SPACE」という展示が、まさに自分の研究と一致し、個人の研究として取り組みました。その内容については、また別の欧洲杯比赛投注_欧洲杯外围app-竞猜|官网で述べます。

 

コロナ禍での渡航。そして、ヨーロッパでの生活。

2019年末より発生したCOVID-19の影響により、2020年、2021年は交換留学制度が開催されず、今回の交換留学制度自体、3年ぶりの開催となりました。コロナ禍の影響もあり、直前まで中止になる可能性もありました。具体的には、渡航40日前に、外務省が定める「感染症危険情報」のレベルが2の場合は中止でした。今回はレベル1のまま40日前を迎え、その後の変更もなく無事、留学は行われました。
自分一人で海外に渡航するのが初めてであり、準備の段階でわからないことだらけでした。チケットの購入から、書類準備、保険の加入、Wi-Fiの用意、準備物など、全て0から始めましたが、過去の先輩方の計画書やアドバイス書、そして2019年に渡航をした鈴木健太さんの留学体験記がとても参考になりました。

鈴木健太さんの留学体験記はこちら

基本的なことですが、私はビザのこともわかっていませんでした。そのため、今回の渡航にビザは必要なのか、から準備を始めました。結果的にオーストリアでの滞在期間が6カ月を超えない場合、ビザが必要ないことがわかり、一安心しました。
出国は想像以上にスムーズでした。オーストリアでは2022年5月16日以降、入国の際に3G証明書(接種証明書、治癒証明書または陰性証明書)の提出が必要なくなり、飛行機への搭乗、オーストリアの入国にはチケットとパスポートさえあれば問題なくできます。これらの情報は全て外務省の海外安全ホームページと、オーストリアの大使館の情報にて確認しました。

外務省の海外安全ホームページ
在京オーストリア大使館ホームページ

渡航チケットは、インターネットで検索をし、最終的にアラブ首長国連邦アブダビ首長国アブダビに本拠を置く国営の航空会社「ETIHAD航空」の往復チケットを購入しました。ANAなどよりも安く、往復で17万円ほどでした。
この時期は2022年2月から起きたロシアとウクライナの戦争の影響もあり、多くの航空会社がロシア上空を通過するルートを運行できず、中東経由するものがほとんどでした。

大まかな渡航ルート(Google Mapより引用)

そして、2022年は円安の年とも言われました。しかし、この情報は「円安」というよりかは「ドル高」と捉えるべきでした。2022年1月には、1ドル115円前後だったのに対して、9月には140円を超えて、最終的に10月には150円まで達しました。
ユーロの価格は、ドルほどの変化はありませんでしたが、ドル高の影響もあってか、価格は高騰しておりました。2022年1月には1ユーロ130円前後と大体平均価格だったのに対して、9月には140円となり、最大147円にまでなりました。

為替の変化(Google Financeより引用)

無事準備も完了し、飛行機に搭乗し、トランジションも問題なく乗り継ぎ(途中、ターミナルとゲートを間違えてしまい、空港をダッシュで駆け抜けました)、オーストリアへ無事入国することができました。

オーストリア最大の駅:ウィーン中央駅

オーストリアでは6月1日以降、公共交通機関以外でのマスク着用義務を概ね撤廃し、マスクを着用している人はほぼゼロに等しく、コロナの影響をほとんど、感じませんでした。とはいえ、コロナが無くなったわけはなく、滞在中にリンツ美大のICの学生でコロナに感染し、自宅待機になってしまう人もいました。
また、オンラインで開催されていた芸術祭も全て現地での開催となり、ヨーロッパ各地で芸術祭も賑わいました。特に今年は、5年に一度開催される現代美術の祭典「ドクメンタ」と2年に一度開催される世界最大規模の芸術祭「ヴェネツィア?ビエンナーレ」が同じ年に開催されることもあり、日本からも多くの人がヨーロッパに来ていました。自分も、ドクメンタとヴェネツィア?ビエンナーレ、ARS ELECTRONICA、ベルリン?ビエンナーレなどの芸術祭を巡り、芸術を堪能しました。

ドクメンタ15のメイン会場となるフリデリチアヌム美術館?カッセル

自分自身、ヨーロッパに来るのが初めてで、全てが新鮮なものとして映りました。中世の影が残る建築、美術史の本に掲載されていた作品、全てがリアルなものとして現前し、とても刺激的でした。
そして、同時にSNSで大きく話題になるようなヨーロッパの事件やニュースが全て、身近なものに感じるのもヨーロッパでの生活の大きなポイントです。
10月14~16日にはロンドンに行く機会がありました。その際に芸術界に大きなニュースが起きました。それは、環境団体「Just Stop Oil」のメンバーによる、ロンドン?ナショナルギャラリーのゴッホ「ひまわり」の襲撃事件(10月14日発生)です。私は、16日にナショナルギャラリーに行き、実際に事件の現場へ行きました。事件直後ということもあり、多くの人だかりができ、スマートフォンを片手にみんなが事件現場を写真に納めていました。

ロンドン?ナショナルギャラリーにて

この事件はさまざまな見解や意見があり、その是非については、今回は取り扱わないとして、この事件の背後について、少し触れます。
この事件の背景にはロシアとウクライナの戦争の影響があります。ヨーロッパの多くの都市はロシアから石油を輸入していましたが、今回の戦争の影響により、光熱費が高騰し、庶民の多くは制限された生活を強いられるようになりました。ロシアの戦争が、直接的な事件の要因ではないにしても、国民の生活に影響を与え、巡り巡って今回の「芸術」の事件につながったと考えられます。
2020年以降のコロナのパンデミック、ロシアの戦争、そして円安。政治と経済の影響をダイレクトに受けたのがヨーロッパでの生活です。
私たち日本人は、ヨーロッパをはじめとして、海外のニュースを、メディアの「向こう側」の物事のように感じてしまうことが多々あります。そして、為替の動向も、海外通貨を取り扱わない限り、画面上の数値が変化しているだけであり、それ以上でもそれ以下にもなり得ない認識です。
つまりそれらは自分たちの生活圏に影響を及ばせないものであり、テレビやスマートフォンのバラエティやエンターテインメントと同じ「消費物」として映り、「事実(Fact)」を「実体を伴わないもの(Virtual)」にしてしまう側面があります。今回の留学準備から始まり、留学生活での多くの経験はそのような「実体を伴わないもの(Virtual)」な物を「実際に存在するもの(Actual)」として身体を通じて体感する経験となりました。
次回からは、リンツ?ヨーロッパでの滞在生活、個人の研究と活動などを通じて、自分にとっての「”Actual”な留学」について述べていきます。