INTERVIEW 033 【前編】
GRADUATE
菅野創+加藤明洋+綿貫岳海
《かぞくっち》プロジェクト
セレンディピティを活かしたクリエイティビティを武器にしたい
2024年3月3日まで東京都現代美術館で開催されていたグループ展MOTアニュアル2023「シナジー、創造と生成のあいだ」に参加している菅野創+加藤明洋+綿貫岳海。NFT、ロボットなど新たなテクノロジーが社会にどのような影響を与えるかを探る作品を生み出している。
前編では3人で初めて協働制作した『かぞくっち』を中心に、小林茂教授が話を聞いた。
X(Twitter)のリプライをきっかけに協働制作がスタート
小林:まずは、自己紹介も兼ねて、『かぞくっち』を3人で協働制作するまでの経緯を教えてください。
加藤:僕は2016年にIAMASに入学したのですが、本当に手のかかる学生で。1年生の頃は畑仕事をしたり椅子を作ったりしていて、茂先生に「僕、どうしたらいいですか?」とずっと相談していました。
小林:ずっとそんな感じでした(笑)。
加藤:ブロックチェーンにはずっと興味があったのですが、修士制作の中間発表の時点では全く白紙の状況で。安藤(泰彦)先生に「ブロックチェーンをやりたいんですけど、どうやって形にしたらよいかわからないんです」と相談したところ、「僕はブロックチェーンについては詳しくないけれど、ブロックって積み木みたいだね。ゲームにしてみたら」と言われました。
菅野:子どもみたいな感想だけど、面白いね。
加藤:そうなんですよ。その言葉で、ずっとボードゲームが好きだったなと思い出して。ブロックチェーン技術がどのように社会を変えるかをボードゲームとして表現し、ゲームを通じてブロックチェーンの可能性と課題を想像できる人生ゲーム『TRUSTLESS LIFE』を修士作品として制作しました。
小林:『TRUSTLESS LIFE』は、『WIRED』が主催するCREATIVE HACK AWARD 2018 SONY 特別賞を受賞するなど高い評価を得ました。
加藤:卒業後も『TRUSTLESS LIFE』の発展型としてブロックチェーンと人工知能(AI)を使って未来都市の運営をシミュレーションする『BAIS – Board game as a simulation of future society』、犬派と猫派の戦いをテーマに、NFTとモノの価値を問うプロジェクト『WAN NYAN WARS』など、ブロックチェーンという技術の本質や関係性を問うような作品を作ってきました。
加藤:その中で、2021年10月に、菅野さんがX(Twitter)でNFTに批判的な投稿をシェアしているのを見かけました。それを見たとき、僕は菅野さんとであれば、ブロックチェーンの技術自体について議論できるのではないかと思い、少し話してみたいなとリプライを送ったんです。
小林:菅野さんと加藤さんは10期くらい違いますよね。それ以前に面識はあったのですか。
菅野:僕はドイツのベルリンと日本を拠点に作品制作をしているのですが、卒業後も日本にいるときは頻繁にIAMASに遊びに行っていて、加藤くんとも飲んだことがあったんです。その時にXをお互いにフォローしていました。
加藤:その時にすごくフランクに話してくださったのが印象的だったので、リプライする心理的なハードルが低かったんです。
菅野:ベルリンはNFTに対して否定的な人が多くて、SNSとかでもたびたび議論が起きていました。Goh Uozumiが書いたNFTに関する記事が分かりやすくまとまっていたのでシェアしたところ、加藤くんからリプが来て。
加藤:UozumiさんのNFTを否定的に捉える視点もわかるのですが、僕はNFTに可能性を感じていたので、リプライして。その後すぐにオンラインで話すことになりました。
菅野:僕は以前、卒業生インタビューでも話をしたのですが、IoT時代における人と機械の関係性を扱った作品を作ってきました。当時はロボットが多数集まって群れとして動作する「群ロボット」による音と光のインスタレーションを製作していました。
群ロボットの個々のロボットは、基本的には群れを構成する一つにしかすぎなくて、個性はありません。だけど、動作不良で動けないものが2、3個隅っこで固まっていたりすると、それを見たお客さんが「あの子たち、仲良くしてるね」という勝手な解釈をしてくれて、急に「個」が浮かび上がってくる。そこに面白さを感じて、個を大事にした群インスタレーションができないかと構想しているところでした。
加藤:その話を聞いて、ロボット同士が繁殖可能で、産まれた卵にも自動的に「戸籍」としてのNFTが発行される、そういうデジタル人工生命体のインスタレーションができたら面白いんじゃないかと話をしたのが、『かぞくっち』の始まりですね。そのアイデアをどう形にするか相談している過程で、綿貫が加わったという流れです。
綿貫:僕と加藤は同期で、卒業制作は『node hands』というインスタレーション作品を作りました。現代のコミュニケーションは指先一つで終わってしまう。その虚無感を俯瞰して見られるような作品を作りたいと考えていました。20台のロボットハンドがスマホの画面を触ると、閉ざされたネットワークの中で情報のやりとりが行われるという作品です。
小林:この作品は『かぞくっち』につながっているように見えますね。
綿貫:見た目は似ていますけど、コンセプトは全く違います。当時の僕はAIに興味を惹かれていたのですが、IAMAS在学中には消化することができず。卒業後、制作会社で働きながら、群衆の動きをビジュアライズしたような習作を作り続けていました。
加藤:綿貫がデジタル上で生物の群衆シミュレーションをやっているというのを知っていたので、デジタル生物が増えるというアイデアをどうビジュアライズするかという時に、綿貫に声をかけました。
生命のような作品は、鑑賞者の創造性を刺激するという気づき
小林:『かぞくっち』はどのような作品か簡単に説明してください。
加藤:『かぞくっち』は、現実空間の箱庭の中にある「家」と呼ばれる移動可能なロボットと、その家に生息するデジタル人工生命体「かぞくっち」の家族によって構成される作品です。「かぞくっち」の各個体の名前や生年月日、家系、遺伝子情報がNFTに登録されていて、売買することもできます。
それぞれの「家」にはICタグが付いていて、繁殖期に他の家のICタグを読み取ることで受精し、新たな卵が生まれます。同じ家で生まれた「かぞくっち」は同じ苗字、似たような形状を持っていて、自動的にNFTが発行されます。
菅野:加藤くんとオンラインで話した2021年の10月当時、翌春のART FAIR TOKYO とポーラ ミュージアム アネックス展に出展しないかと打診を受けていました。フィジカル、ロボット、NFTというテーマで作品を作るなら今しかないと思い、1月に加藤くんに電話して、制作がスタートしました。
その時点では、ロボットがロボットを産むというアイデアしかなくて、どのように交尾させるか、ハードウェアの仕様をどうするかなど何も決まっていない状況でした。2月中旬に別の仕事が終わって、それから2週間で作りました。
加藤:最初の展示となった3月の『ART FAIR TOKYO』で3日間出展したのですが、その時点ではまだ動作していない状態でした。
菅野:形にはなっているけれど、プログラムが完成していない状態で、それでも「面白そうですね」って、買ってくれる。過去最高の売り上げを記録してびっくりしました。
加藤:その後すぐに『ポーラ ミュージアム アネックス展』、4月に茂先生にもトークイベントに来ていただいたArts Chiyoda 3331の『Proof of X』、6月から半年間『ICCアニュアル 2022 生命的なものたち』と展示が続き、展示のたびにブラッシュアップを重ねていきました。
菅野:ICCでの展示期間中にクロアチアにアーティストインレジデンスで滞在して、そこで大きなバージョンアップをしました。ICCの会期後半でバージョンアップした『KAZOKUTCHI Season2』を展示しました。
加藤:Season2では充電ブースを実装したり、「がぞくっち」の形状をバージョンアップしたりしました。最新バージョンでは、箱庭の中に東京都の地形をジオラマ的に表現しています。また光センサーを追加。10分を1日に見立てて昼と夜で光が変わるようにし、環境の変化によりロボットの行動が変わるようになりました。
東京都を模したことによって、見る人の想像力をより刺激するようになったのは大きな変化です。例えば「スカイツリーの近くでイチャイチャしているね」とか「ディズニーランドに集まっているね」とか。生物的なものを見ると、人は勝手に妄想してストーリーを感じてしまう。非常に面白い発見でした。
菅野:アルゴリズムによって動いているので、プログラムの範囲を逸脱しないけれど、時々予期せぬエラーが起こる。例えば、バグで同じところをずっとぐるぐる回転しているロボットを見て「僕も疲れすぎてテンションが高くなることがあるけど、この子の『電池使い切るまで回るぜ』みたいな動きがパリピっぽくていいね」と誉めてくれる人がいる。エラーも全部拾い上げて作品が出来上がっているというのがすごく興味深いです。
オプティミスティックとクリティックの間を目指す
小林:鑑賞者によって、作品の見え方が多様に変化するのは興味深いですね。日本とヨーロッパでの反響に違いはありますか。
菅野:生殖をデザインするのは神に近い領域で、それに踏み込むゲームを作ることに対する抵抗感はヨーロッパではかなり強いです。「奢りだ」と批判されることもありました。八百万の神を信仰する日本とは、神に対する寛容性が全く違う。日本ではちょっと優れた人のことを「マジ神」っていうくらいなので。
加藤:箱庭の上からカメラでタイムラプスを撮っているのですが、それが監視社会のメタファーに見えると言われたこともありますね。
菅野:「個」と「群」は基本的には相反するもので、ヨーロッパ人は個人の自由を優先したい気持ちが強いからだと思いますね。
僕は日本で生まれ育って、今は日本とヨーロッパの半分半分の生活なので、両方の考え方を批判しないで受け入れることができる。その中間を目指すというか、バランスのとれたことができたら、ユニークな存在になれるのではないかと思っています。
小林:僕もそこはすごく面白いと感じました。作り手が意図していなくても、鑑賞者がさまざまな解釈をする。楽観的なものと悲観的なものの間、どちらでもないものを目指せると思います。
菅野:スペキュラティブデザインのように、作り手側にメッセージや主張があってモデルを作っていく手法だとそうはならないと思います。でも僕らは動くものを作っているので、エラーが起こる。そのセレンディピティを活かしたクリエイティビティを武器にした方がいいだろうと考えています。open to interpretation(いろいろな解釈が可能である)というか、ステートメントを強く出さずに、目の前で起こっていることによって考えるきっかけを与えられるのことに可能性を感じています。
小林:菅野さんは元々そういう制作の仕方をしてきた気がしますね。加藤くんのボードゲームの場合は、プレーヤーが参加するので少し違うかもしれないですが…。
加藤:「ゲーム」と「遊び」の違い。ゲームはルールがある世界なのに対して、遊びは途中でルールがどんどん変わっていって、終わる頃にははじめに想定していなかったところに達していたりする。
『TRUSTLESS LIFE』はルールがあり、実際に体験する前に30分くらい説明する必要があります。プレーヤーをいかにルールを作る側にするかという試みをしてみたこともあるのですが、うまくいきませんでした。
一方で『かぞくっち』は鑑賞者が勝手にストーリーを作って、プレーヤーになってくれるところが面白い。僕が目指していた「先が見えない自由さ」に繋がっている気がします。
小林:『かぞくっち』もルールがデザインされているように見えて、実はどんどん変わっていますね。
菅野:可塑性があるところが、この作品の面白いところだと思っています。
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編集: 山田智子 / 写真: 福島諭